SCENE15 できる管理者は先を読む 将来を予測する視点を持とう

 優秀な経営者や管理者は、超能力者のように先を読む。逆に、優秀な管理者になるためには、先が読めないといけないということでもある。果たして、未来を読むことは可能であろうか?

 奈須が石崎に統計を出してもらおうと事務室へ来た。事務室では、三和事務長と石崎が会話をしていた。事務長は、上村院長の先を読む力が抜群だと興奮していた。どうやら先を見据えた経営をしてきた日本総合病院が、時代に合致してきているようだ。本当に、未来を予知することなんてできるのであろうか?

奈須:事務長さん、お疲れ様です。

三和:おっ!看護部のホープが来たね。師長業は順調かい?

奈須:おかげさまでうまくいっています。事務長さんと石崎君の仕事の邪魔をしちゃいました?

三和:他愛もない話だから大丈夫だよ。院長の先を見据えた経営ってすごいなぁって話をしていたんだ。

石崎:院長って予知能力者じゃないのかなって話だったんだよ(笑)。

奈須:そうですね。院長が言っていることは、後から医療政策や社会が追い付いていますよね。どうやって、予測しているのかしら?

―そこへ院長が登場した。

上村:事務長、現場で油を売っていちゃだめだよ(笑)。

三和:すみません(笑)。いま、院長の先を読むセンスを学びたいって話をしていたんです。

上村:そんなのは、簡単だよ。相手の立場になることだ。

三和:相手の立場になるということは、どういったことでしょうか?

上村:相手とは、医療政策を立案している官僚や患者さん、地域の住民、医療従事者、世論だよ。いつも自分たちのことを考えるだけでなく、逆の立場に立って物事を考えるということだ。そのためには、官僚や患者さんなどがどういうことを考えているか理解していないといけないんだ。私も医師会や病院会の仕事をしているから官僚と接する機会も多く、官僚がどのようなことを考えているかある程度わかるし、数年前に入院してオペを受けたから患者さんの気持ちも分かる。そんなことを総合して、先の経営を考えているんだ。至極簡単なことだよ。

奈須:確かに、入院経験のある看護師の看護には深みが出ると言いますが、そういうことなんですね。これから看護も管理も、相手のことを深く考えて仕事をしたいと思います。

上村:そう理解してもらえるとうれしいね。ただし、先を読むためには、相手のことを理解すると同時に、知識も必要となる。官僚のことを理解するには、医療政策の展開されている背景を知ることが大切で、患者さんや地域の住民、世論のことを考えると医療に関するテレビの報道やドラマ、情報番組も知っている方がいいね。こういった情報もアンテナを伸ばし、仕入れておく必要があるんだよ。そうすると、なぜこういったことが起きているのかといったことがわかるようになる。あとは、これまでの経験から先がわかるようになってくるんだよ。

三和:私も勉強しないといけませんね。努力が足りませんでした。院長先生のようになれるように頑張ります。

上村:私のようにならなくてもいいよ。その代わり、医師や看護師のリクルートの先を読んでくれたまえ。

 トップマネジャーである経営者やミドルマネジャーである管理者は、スタッフに先を示さなければなりません。病院で働いているスタッフは、医療現場にいる限りどの病院でも厳しい環境にあります。医療現場では、医療政策や病院経営が不安定な中、まるで真っ暗なトンネルの中にいるような状態です。皆さんも(図21)のようなトンネルAとトンネルBがあったとしたら、どちらを選択するでしょうか?当然、トンネルAだと思います。トンネルAは、出口が見えるため途中が暗くてもいつかはトンネルから出られることがわかります。一方、トンネルBは出口が見えないため、トンネルから出ることができるかわかりません。これは、組織の管理にも通じる点があります。トンネルAを目標がはっきりとした組織、トンネルBは目標がはっきりとしない組織と捉えることができるのです。目標があり、目標にたどりつけば明るい未来が約束されていることが分かっていれば、途中つらくてもスタッフは頑張れます。しかし、目標がなくお先真っ暗な状態では、スタッフは精神的に疲弊してしまいます。いつまでつらいか分からないのは、人間にとってとても不安なことなので、退職を決意するかもしれません。

 管理者とは、(図22)のように先頭に立ってみんなを引っぱる存在です。つまり、リーダーです。スタッフが不安にならないように、目標というトンネルの出口を示し、その目標を達成するために道を作らなければなりません。そのためにはスタッフの知識や経験、文化、性格などを把握し、うまくリードしていくことが求められています。そして、リードするためには、先を歩かねばならず、先々の整備をしていかなければならないのです。